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医療通訳の立場

病院での待ち時間は長い、そして、どうすればいいのか困る時もある。病院の待合室での長い時間を「患者さんとどう過ごすか」が通訳仲間達と勉強会で話題になったことがある。それほど難しい。

 

 日常生活と違う、慣れていない病院での、そのうえに他国での受診という不安を少しでも和らげるため、できるだけ寄り添うように心かけている。

 

 しかし、公私をわきまえて付かず離れずの態度を取るのは意外と簡単ではない。

そればかりではなく、相手によりとらえ方も様々でそれぞれ違う。

国民性も少ながらず影響しているかもしれない。

色んなタイプの患者さんがいるのである。

病院側から、「今日は通訳が来ます」と説明されていなくて戸惑っているのか、そもそも通訳といえ、知らない人が私生活に入ってくるのが嫌なのか、露骨に嫌な顔をする患者さんもいれば、嬉しそうな顔をしてくれる人もいる。

 

 待合室での過ごし方も様々である。

私が経験した中で最も辛かったのは、患者さんの終わらないおしゃべりに付き合った時の事である。3時間ずっと身の上話を聞かされた挙句、私が誤訳をしていたと言ってきた。幸い、すぐに疑いが解けて問題にはならかったが、驚いた。また、待ち時間が長くて昼食を取れていないのを心配してコンビニで買ってきたお握りをずっと勧めるので断ったら、さみしい顔をしていた優しい人もいた。私に親しみを感じたのか荷物を持たせて平気な顔をしている人もいる。ある緊急入院になった患者さんには、帰り際に「どこそこに住んでいる友達に自分の入院事実を伝えて欲しい」と頼まれ、断ったら納得できない顔をされた事もある。

所属団体のルールで、通訳者は、患者から食べ物や謝礼は受け取らない、また荷物を持ったり、伝言をしたりというコンシェルジュのような業務はしないことになっているのだ。

 

 もちろん困ったことばかりではない。

症状がとても重くて、定期的に病院に来て薬を飲まなければ、いつ倒れるかわからない、外来患者さんの奥さんに「病院に来たら一日つぶれてお仕事もできないし、何よりお金が続かないので次から通院できません。今日が最後です。」と言われて「地域相談室」に同行して相談を受けた。事態を重くみた社会福祉士さんの親切で、その場で区役所の生活保護担当者に連絡を取って事情を話して無事に生活保護を受けられるようになったことがある。医療通訳に関わって10年目に入った私の通訳活動の中で、一番、人の役に立ったと思える経験だ。

 

(K.K)