前回のブログで取り上げられていた「医療通訳者の七つ道具」のうちコロナ禍にあるか否かにかかわらず7番目に挙がっているのが、医療通訳者がつらい内容の通訳を忘れられる癒しグッズ・癒し時間です。今回はこの点について私自身が最近経験したことを共有したいと思います。
ずいぶん長い間医療通訳に携わってきた中で様々な患者さんに接してきて、患者さんの治療後の予後をよく考えます。治療後の患者さんのQOLを維持すること、そのためにどのようなリスクがあるのかを考えると、患者さん一人一人にとっての具体的な治療のあり方は変わってくると思います。患者さんと医療機関と相談しながら皆で最善を尽くしたと思っても、残念ながら期待した結果が得られないこともあります。
たいへんまれなケースでしたが、半年ほど前に外国籍の患者さんが日本での急性期の治療中に亡くなりました。外国籍の方が日本で亡くなるということに関して起こるたくさんの課題に直面しました。必要な届けをどこに出したらよいのか、母国に帰るにしてもどのような状態で帰るのか、そのための手続きとしてはどのようなことが必要なのか、などといったことの中には、患者さんが帰るべき国によって違う手続きもいくつかあります。
このような経験をしたことで、外国籍の方が日本で亡くなった際に相談できる業者さんがいるということも知りました。そのような業者さんの存在がどれだけ心強かったかわかりません。また、その日までの経緯を振り返ってああすればよかったのではないか、こうすればよかったのではないかとつい考えすぎてつらくなってしまう気持ちを救ってくれたのは、ご遺族の方々からの感謝の言葉でした。その一言にお礼を言いたいのはこちらでした。誠意をもって仕事をするということの大切さをいまいちど肝に銘じました。
医療通訳者のメンタルケアが大事であることは誰もが知っています。 実際どうすることがよいのかは人それぞれかもしれませんが、まずは、自分は誠意をもって仕事をしたのだと改めて自覚すること、さらに、起こったことを客観視して人に話すということが効果的なケアの第一歩のように思います。起こったことを客観視するためには少し時間が必要かもしれませんが、逆に人に話そうと思うことで少し客観視することもできます。客観視できれば感情的になることもありませんし、通訳として守秘義務を持っているということに注意しながら話すことができます。自分が今回のような経験をして改めて思うのは、必要の時は自分も適切に話の聞ける人になりたいということです。
私たちは医療通訳者として様々な患者さんに接します。担当する症例も状況も様々ですが、患者さんが今受けている医療の先に何が必要なのか、患者さん各々の予後はどうなのかを考えることも、コミュニティで共に生活していくことつまり多文化共生でもあるのだと思います。(YN)
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