少し前までの医療通訳者の七つ道具と言えば、1.電子辞書、2.ボールペン、3.メモとりのためのノート、4.机がなくても書けるようなボード、5.事前に準備したメモや単語集、6派遣元の名札、7.つらい内容の通訳を忘れられる癒しグッズといったところでした。
それ以外にも、大きなバッグは荷物の置き場所がない時にも、両手をメモ取りや辞書のために開けておくため、必需品だったのではないでしょうか。
国の方針や新型コロナウイルスの流行が、遠隔ビデオ通訳の普及に大きく影響したこともあって、現在は遠隔ビデオ通訳も行っている通訳者が増えてきています。遠隔ビデオ通訳の七つ道具としては1.パソコンかタブレット、2.良い接続環境、3.通訳を行うソフトウエア(以下ソフト)、4.通訳を行う際の背景、5.コントロールされた表情、6.家族の協力、7. つらい内容の通訳を忘れられる癒しの時間を上げたいと思います。
1.のパソコンはハードディスク(可能であればSSDの方がより高速です)の空き容量が十分で、メモリの容量も大きいものが望ましいです。OSのスタートアップ時に同時に起動するソフトはできるだけ少なくしておくことをお勧めします。プログロムやソフトの更新を仕事外の時間にこまめに行います。タブレットも小さすぎると使いにくいので、大きめのインチが必要でしょう。
2.の良い接続環境も素早く対応するためには不可欠です。通訳時に画面がフリーズしたり、切れたりしないことはもとより、相手から接続されたときに、接続音が鳴りだすのに時間がかからないようにするためです。小刻みにでもフリーズすると、通訳時に1つだけ大切な単語を聞き逃がしたり、聞き逃されたりするのではないかというストレスから逃れるために有線を選ぶのも1つの方法だと思います。
3.遠隔ビデオ通訳に使うソフトは1つではありません。自分のパソコンにいくつかの接続のためのソフトをインストールし、仕事中は立ち上げておき、通訳が始まると使わないソフトを離席中とし、通訳終了後は即座に、待機中に戻します。通訳記録も複数のソフトや入力サイトを使うことが想定されます。こうなってくると、通訳技術だけでなく、事務能力を求められます。指定されたフォントやサイズで1つのマス(セル)の上下左右の位置も調整しながら入力するよう求められることも。求められない場合は、コーディネーターが必死に修正しているかもしれません (コーディネーターの独り言)。
4.通訳を行う場所の背景も事務的なものを求められます。バーチャル背景が使えるソフトでなければリールに布をかけたり、背後の壁の飾りを毎回片付ける必要があるでしょう。
5.通訳を行う際の表情は、同席の通訳時より顔のアップが表示されるため、相手に与える印象は濃くなるようです。具合が悪い患者さんがいるのにずっと笑顔でいる訳にはいきませんが、患者も医療機関も安心させる表情を研究しておきたいものです。
6.小さい子どもさんや高齢の家族がいる場合、独立した部屋で通訳を行っていても、予期せぬことが起こる可能性があります。大きな音をたてたり、画面に入ったりしてこないように、ある程度の練習が必要でしょう。ご家族や同居している方への成功報酬のおやつやビールの準備をお忘れなく。
7.外出して通訳を行う場合は、帰りに何か買い物したり、食べたりと気分転換をすることが可能ですが、家で通訳が終われば、すぐに生活が待っています。通訳の内容がつらいものであったり、失敗したのではないかと落ち込んだりした時には、ほんの短い時間であっても自分を癒す時間を持つことを強く勧めます。
一般的に自宅での待機型の通訳の場合、出勤型や同席型よりも報酬は少ないと聞いています。報酬は少ないのにパソコン、ヘッドセット、接続環境、働くための資格など投資しなければならない負担は増えています。それでも医療通訳者としてがんばるのは、なぜなのか。もういちど考えつつ、今日の私のブログを終えたいと思います。(N.I.)
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