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最近おもうこと

 私は1998年にアメリカで医療通訳を始めて以来、今までアメリカと日本で約20年、ささやかながら活動してきました。私が日本で医療通訳を始めた2006年には、医療通訳という言葉は、ウェブで検索してもほとんど何も出てきませんでした。日本における医療通訳者の役割は当時と比べてどのくらい理解されるようになってきたでしょうか?

 進歩があったといえばありました。でも、見方を変えれば、あれから10数年たった今も、あまり状況は大きくは変わっていないと感じています。

 今になっても、医療通訳というサービスに対する対価・報酬は、誰が支払うべきか、決まったものがありません。最近は病院が電話での医療通訳サービスを利用するようになりました。料金は病院が支払うのですが、個別の病院が単独に電話医療通訳会社と契約するのではなく、団体契約、つまり医療グループや薬局グループとして、地方自治体、または医師会がサポートをして、それを個々の病院が利用するケースが多く見受けられます。

 それ自体は素晴らしいことですし、15年前と比べたら格段の進歩なのですが、医療通訳者への報酬はどこから誰が出すべきなのか…という話に、いつも戻っていってしまうのです。

 電話通訳サービスの提供を開始した病院も、しばらくすると患者さんへ通訳料を転嫁し始めたところもありますし、今でも、「日本語が話せるお友達を連れてきてほしい…」と言う基本的な考え方は変わっていない医療機関が多いようです。一方で、専門病院、大学病院の中には、医療通訳者を入れないと、外国人患者に説明と同意(IC)をおこなわない、と決めているところもあります。病院も2分化してきているように感じます。

 そんな中、この夏には、国際臨床医学会が、医療機関におけるOJT研修システムの確立に向けて動いていくというシンポジウムが開かれました。国際臨床医学会は、2019年に認定医療通訳士の制度を作ったのですから、私はすぐに実務研修が始まるものと思っていました。予定によれば、4年後には医療現場での通訳実技、研修を経て認定が更新されるということなので、あと1年しかありません。具体的な動きは末端にいる通訳者にはまだ見えておりません。

 そのOJT研修なのですが、病院は、「協力はできる…」と表明しているところが多いにもかかわらず、実行に移すとなると、このコロナ禍で忙しい時に、「一体誰が研修の指導を行うのか?」とか、「病院にいる通訳は忙しくて時間がない」、といった声が多いようです。もちろん今のこの新型コロナ流行の状態では、研修通訳を入れることは、感染リスクを増やすことになるので、なかなか難しいと思います。

 個人の意見としては、わたしは、通訳者の研修を行う人たちは、病院内部の通訳者やコーディネーターではなくてもかまわないと思っています。むしろNPOや任意団体で長年通訳を実際に行ってきた方たちが、指導をする最適任者だと思うのです。病院を使わせてくだされば指導や研修プログラムは経験のある団体が実施するのでもいいのに、とおもうのですが、なかなか現実的には難しいでしょうか? NPOや国際化協会などはそれそれの団体で、通訳者を育ててきているわけですから、それなりのノウハウがあると思います。それなのに、行政も病院も、「ボランティアでやってきた人たち…」というだけで、その人たちがどれだけ自分たちで道を切り開いてきたかを知らないまま、「こういった人たちには頼めない…」と思っているのでしょうか。ボランティア通訳ということばを、素人の集まり、あまり能力が高くない人たち…という意味で使っている方たちがいます。

 しかし、現在 電話通訳などの会社に入っている実際に医療通訳を行っている人たちは、実は、そのボランティア通訳者と同じひとたちである…ということが多いのです。つまり、地域のボランティア通訳も電話会社のプロの通訳も両方ともやっている方たちがいるわけです。私自身も、ボランティア通訳も会社での電話通訳も、医療ビザで来る方の通訳を提供するエージェントの通訳もやりますし、報酬は0円から16000円まで、全く違うのです。でも、どちらの通訳も同じ技量、同じ情熱が必要なのです。

 

 最近は、日本という国は、外国人の基本的人権というものは全く意に介さない国なのではないか‥と思うことが多いです。もちろん、個々にたくさん素晴らしい方たちはいて、NPOで外国人のサポートをしていられる方たちには深い敬意をはらっています。ですが、行政・政府が、外国人の基本的人権を守ることに重点を置いていないように思います。最近のニュースに目を向けてみた時、この夏のアフガニスタンからのアメリカの完全撤退後の難民のニュースを見ても、日本の難民の受け入れ人数は、驚くほど少ないという状態で、これは以前と何も変わっていないし、改善される兆しもないことがわかりがっかりさせられます。また、入国管理局で拘留されている人たちの基本的人権がおろそかにされていることは、スリランカのウィシュマさんが入国管理施設で亡くなったという事件を見ても、明らかです。外国人技能実習制度に関しても、日本に来て一生懸命働いて国の家族を支えたいという思いのもとに日本に夢を持って働きに来る若者達に、家族同伴も認められていません。

 日本の外国人への対応は変わっていくことがないのだろうか?残念ながらあまりポジティブに考えることができません。結局は、医療通訳が発展していっていないということも元のところは同じ根っこから発生しているのではないかと思っています。

 私には今いったい何ができるだろうか、と考えたときに、まずは目の前にいる外国人のサポートをすることしかできないのです。一人一人の外国人のサポート、それが電話通訳であろうが同行通訳であろうが、予約取りや病院問い合わせのサポートであろうが、困っている人はいるわけで、それぞれが実際に助けを必要としています。

 医療通訳者はそれぞれの患者さんたちのプライベートな事情を、立場上知ることになります。これは、図らずも今の社会を知る切り口にもなります。つまりなくならない問題点を一つ一つ私たち医療通訳者はその目で見ているのです。心が痛むことも多々ありますし、喜んでもらうことになればやはりうれしいです。ただ、現実的には疑問を抱えながらも今は淡々と通訳をしていくしかないのだろうか、と思うこの頃です。 (M.T)