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大学生の目に映った医療通訳とは

私は、大学の外国部学部に所属し、大学と大学院で通訳の授業を担当しています。本外国語学部では、今学期初の試みとして一年生を対象に、私は日本における医療通訳の現状と基礎トレーニングをテーマに4回にわたって講義を行いました。そのうちの一回は県内の協定医療機関に医療通訳を派遣しているNPOの英語医療通訳スタッフY.I.氏に現場の経験を語っていただきました。初めて見聞きするであろう医療通訳について、若く健康で病院と無縁な大学生たちがどのように講義内容を受け止めたのか、授業後に感想を書いてもらいました。この機会に、医療通訳に対する彼らの興味と関心の変化を、医療通訳者の皆さんとシェアしたいと思います。

 

 まず、授業後の感想文から、学生の皆さんは医療通訳の重要性と必要性をよく理解し、医療通訳者には高度な職業能力の他、文化の仲介なども求められていて、その現場対応の難しさに、多くの反響がありました:

・医療通訳者にはこの授業で初めて出会ったのですが、文系でも医療に携わり人の命を救う手助けができるなんて、とても素敵な職業だと思っています。

・通訳の中でも、生命に関わる医療通訳は最も高度だと考える。

・医療現場において、医者や看護師と同じぐらい重要性の高い役割を果たしているのが医療通訳者だと思った。身体のどこかが悪くて病院に来ているわけだから、それだけでも不安なのに、言葉が分からないことでさらに不安になる。それを和らげることができる医療通訳者は外国人患者にとって安心できる存在だと思った。

・医療通訳は他の通訳とはレベルが段違いに難しい上に、ニュアンスでいいだろうといった妥協が許されない大事なものだと感じた。的確に、でも分かりやすく、というバランスが難しいと知った。特に日本語は曖昧な表現や擬音などが分かりにくいからそれをどうやったら海外の人にも伝わるのかが課題だと感じた。

 

 医療通訳者の必要性と難しさに共感すると同時に、医療通訳者がおかれている現状、とりわけ国家資格としての認定がまだなく、ほとんどボランティア扱いであることに驚き、現状改善を求めるコメントが多く寄せられました:

・授業を聞いて日本の医療通訳の制度が十分に整っていないことに驚きました。医療は命に関わることなので早急に政府が焦点を当てて取り組むべきだと思いました。

・私は医療通訳の国家資格をつくり、更に拡大させていくべきだと考える。グローバル化によって更に通訳の需要が高まると考える。なので大学科目に通訳の授業を増やせば、興味を持つ人が増えるのではないかと思う。

・医療通訳は生死に関わることなのに給料が安いのが気になった。

・通訳報酬が思ったよりも低くて驚きました。医療通訳はこの時代を生きる上でとっても必要であり、厳しい新人研修を通ってきているのでもっと広まるべきだと思いました。

・ボランティアとしてやっていることに驚いた。人のためにやっていることがすごいと思った。

・異なる言語を話す人同士が医療という専門的且つ重要な場面で会話するにあたって、そこには多くの壁があり、医療通訳は必要不可欠であると改めて実感した。しかし、進んでいる川崎でさえ、ほぼボランティア状態の雇用形態であり、その努力に全く見合っていないことは非常に大きな問題である。それこそが医療通訳が足りていない現状を引き起こしている要因の一つであると考える。

・医療通訳者の方が少ない給料で外国人の為に働いてくださっていること、政府がもっと支援や働きやすい環境を作って欲しいと考えました。もし、自分が外国人の立場だったら医療通訳者の方がどれだけ頼りになるのか考えさせられる授業でした。もっとお話を聞きたかったです。

 

 また、医療通訳のトレーニングや心得、とりわけ共通言語としての英語の医療通訳者の難しさも学生の関心を惹きつけました:

・通訳トレーニングで、聴きなれない医療用語を日本語で記憶して伝えることですら難しいものを、患者の立場に立ってわかりやすく通訳をするのはとても難しいと思った。

・英語は話せる人も多いのでコミュニケーションをとることは簡単だと思っていたが、英語を話す人口が多いからこそ、文化や習慣も国によって違うので、英語を話せるだけでは難しいと思いました。

・医療通訳はただ通訳すれば良いというだけでなく、患者さんの病状やその場の状況など様々なことを考えて対応しなければいけないということがすごく大変だと感じました。

・英語の通訳者は、英語ができる人が多いからこそ難しく、改めて複雑さを感じました。自分たちとあまり変わらない給料(アルバイト代)で様々な患者様の対応を行い、そのプロフェッショナルに圧倒され、こんな世界があったなんて初めて知り、とても勉強になりました。

・正確に言葉を伝えられたとしても、文化の違いによって理解に辿り着かないケースが多いことが分かった。そのような文化の違いなどによるすれ違いを避けるためには、相手の文化や常識への理解が大切である。自分達にとっての常識を信じ込み過ぎると互いの理解に辿り着かない。

・国際共通語であるがゆえに、他の言語に比べて最も英語話者のバックグラウンドに幅があると伺い、そのうちの1人として非常に納得した。特に第二外国語同士で英語を用いる際は、文化の差があることを常に心に止めておきたい。

・医療通訳の心得を守りながら取り組むことが非常に難しそうだと感じた。どの心得も単純で当然のものではあるが、イレギュラーな事態には自分の判断が命を左右する可能性も出てくるという、強い責任感が必要な仕事だと分かった。

・心得10ヶ条を見て、医療関係者や患者に対して常に客観的でいることの難しさともどかしさが経験談からも伝わりました。でもこの客観的があるからこそ通訳が成り立つのだと思いました。

 

 皆さん、大学一年生の目に映った医療通訳の現状はいかがでしょうか。4回の講義を受けただけで、これだけの反響があったとは正直私も驚きました。132名の学生が毎回熱心に耳を傾けてくれて、その真剣な眼差しから何か心に刺さったものがあったと感じました。医療通訳者の理解者、支持者、そして参加者にもなりうる学生の生の声が聞けて、非常に有意義だと思いました。この度若者から得られたこれらの共感を大事にし、今後も地道に医療通訳者養成の輪を広げていきたいと思います。

賛助会員, H.M.