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コロナ禍と医療通訳

コロナ禍の中で、私たちの生活や仕事の形態は変化を余儀なくされ、これまでの常識は大きく変わりました。東京に行けない、旅行に行けない、外食ができない、友達と大声で騒ぐことができない…我慢を強いられる毎日となりました。

医療通訳派遣の実践では、感染対策として、それまで正確性への疑問や遠隔機器の準備が整わないなどの理由で進まなかった電話やスカイプ、ズームなどの機器を利用した遠隔通訳の必要性が認識され、各地で制度化が進みました。

遠隔診療の準備も進むなど、コロナは日本中どこでも地域格差なく遠隔での診療や通訳が実践される大きな弾みとなりました。ハードとソフトの両面から情報がいきわたり、関係者に必要なトレーニングが準備され、夢に描いた将来が近いように思います。そのために国の助成金が使われています。

全国の講習会がZOOMで行われ、全国各地から参加できるようになりました。関心を持つ人であればだれでも容易に必要な知識を習得できます。企業、大学、NPO主催のものなど壁なく参加自由という環境がコロナ禍の中、整いました。

 

ここで話を医療通訳に戻しましょう。これから医療通訳制度はさらにどのように展開されていくのでしょうか。

各地で派遣通訳制度の充実が図られる一方、電話通訳業のサービスは、医療機関や保健所、隔離施設での外国人のコロナ患者への対応が否応なしに必要とされる中、多言語かつ即時対応可能という強みを生かし、急速に展開されています。国からも助成金が充てられ、地方自治体、医療機関に普及し始めました。

一方、地域の医療通訳派遣制度はボランティアによる対応がほとんどですが、コロナ禍のため更に厳しくなっている地方や医療機関の財源難の中でこの先どうなっていくのか見通すことが難しくなってきました。

 

遠隔通訳と並び現在利用されている多言語音声翻訳ツールについてみると、最近興味ある研究結果が発表されました。現場の医療関係者、通訳者はどのように考えているのか、「医療通訳の役割・多言語音声翻訳ツールに関する意識調査」(東京大学医科学研究所20213月)(https://www.pubpoli-imsut.jp/files/files/61/0000061.pdf)は、今後の対面医療通訳者制度と多言語音声翻訳ツール利用の行方を考える貴重な資料となっています。医療通訳者の役割や、通訳の機械化と「人」の役割分担をどのように考えるのかを、10年前の医療現場での外国人対応状況と比較して医師と通訳者の双方から回答を得、まとめられたものです。

回答を得られた302名の医師のうち「日本語に不自由な外国人の治療に対応した経験がある医師は91.7%」に上るのに対し、まず「医療通訳者を交えて外国人患者に対応した経験のある医師は35.0%」とあり、依然医療通訳派遣制度が十分に普及していない現状がわかります。

多言語音声翻訳ツールの利用については、通訳者と医師の双方が通訳者とツールの強みを生かして共存すると想像しています。

「通訳者の活動が引き続き主流」と考える医療通訳者は、医療通訳は正確性や患者の文化的な背景など考慮する必要から「本来的に人間がやるべき」と考え「患者の状況や心情を理解したり、時に患者に寄り添ったりすることが医療通訳には必要であり、その役割は機械では十分に果たせないため」と考えています。

一方、医師は、「医療従事者と患者が直接意思疎通でき」「診療がスムーズになる」「実際に使用して便利だった」と回答するものが目立ち、患者の満足度についても、「医師は8割弱が前向きな評価をした」と結論しています。「今後更に多言語音声翻訳ツールの未来に強い注目や期待を寄せ」、「柔軟性」「コスト」にも関心が寄せられていると言及しています。

サービスの利用者である医師の見解とサービス提供者である通訳者のこのような見解の違いは今後どのような場で調整される機会が与えられるのでしょうか。

 

地域で医療通訳制度を考える時、医療機関の医師や医療通訳者の意識調査は今後の制度を考える上では欠かせないものです。翻訳機器の技術的進歩が著しく、通訳派遣業が急速に展開されるという社会情勢の中で変化する関係者の意識を確認し、地域の制度のあるべき姿を行政、医療機関、通訳者など関係者の皆さんとイメージ、企画することが大切です。

そこでイニシアティブをとるのは誰なのか。国、地方、医療関係者、NPO、通訳者など関係者すべてがその重要性を認識し、目指すところを共有し、協働の土台が整えられる地域は日本全国でどれほどあるのでしょうか。

経済は重要ですが、経済優先の風潮が地域の関係機関の連携や人のつながり、人命という大切なものをともに守るということを軽んじてしまうことにつながるとすれば残念なことです。

 

多くの課題を関係者がともに前向きに取り組み続けることが大切ですね。一医療通訳者として、地域の医療通訳者制度を考える者として、日本語を理解できない患者さんが「誰ひとりとり残されることのないよう」諦めずに前に進みたいと思います。

 

H.M.

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コメント: 1
  • #1

    いしばしさとこ (木曜日, 13 1月 2022 12:59)

    前略、コロナ禍での医療通訳、拝読致しました。私は、以前、医療事務として、医療機関に、勤務していたものです。このコロナが、発生してから、今まで、一番、ここまで、人に、伝える。のが、こんなにも、難しいことなのか……。と、気づきました。現在、書店に、勤めてますが、職場の方々に、聴かれたとき、このコロナというウイルスのことから、感染力、潜伏期間、治癒までの期間、の基本的な理解、そして、一番は、なんで、近距離で、大声で、会話をしないほうがいいのか、その点を、理解いただくこと。なぜ、かんせんしてしまうか。が、一番難しかった。ということです。医療従事者と、一般の方々の間に、誰か、医療用語から、患者さんの気持ちを支える職種が、あったら、どんなにか、患者さんの不安が、取り除かれるだろうか、が、まず、頭に思ったことです。二点目は、医師やコメディカル、ナースの方々と、患者さん、そして、患者さんの家族や、職場の間を取り持つ関係が、必要ということ。メディカルソーシャルワーカどはなく、あくまで、医療通訳として、ひとつの大事な職業として、大学や、専門学校、などでの育成の取り組みが、行われていくことを、望んでいます。