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コミュニケーション

 30年ほど前、仲間と地域に日本語教室を立ち上げた際、お世話になった日本語教師養成講座の先生に繰り返し言われたことがあります。

「あなたが発した言葉が学習者の頭の中、心の中でどう捉えられているか必ず感じるようにすること。」

「どんなに高度な教授法のスキルがあっても、一方通行ではコミュニケーションではない。「自分が発したメッセージを相手がどう受け取ったかを感じ取る」という段階まで踏まない限り、本当のコミュニケーションはとれないと。

 これは医療通訳を始めてからも強く感じることです。

通訳した言葉を患者さんが理解・納得すると、私と患者さんの間に流れる空気がクリアになる瞬間があります。反対に、理解していなかったり、疑問に思ったり、納得していなかったりすると、どよんとした空気が漂います。

 医療通訳の「足さない・引かない・変えない」の鉄則に則りながらも、通訳した内容を患者さんがどう感じたのか、どう理解したのかを「感じる」ことはとても大事だと思います。理解・納得しきれていないようだなと感じたら、「今私が通訳した内容、わかりましたか?」と一言添えることによって、患者さんが言いたくても言えなかったかもしれないことを言ってもらえるチャンスを作ることができます。

これこそが機械にはできない、人間にしかできないことなのではないかなと思います。

 コロナ禍で、対面通訳でもマスクをつけていて患者さんの表情を見て取ることが難しく、さらに遠隔通訳だと間に流れる空気を感じることも難しいですが、でも、それでも私たち人間にしかできないことはあると信じて病院に向かっている日々です。(MS)