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コロナ渦の中で

半年以上にも及ぶコロナの影響は医療通訳の世界にもいろいろなものをもたらしました。

私の活動しているNPOでも4月半ばから8月末まで病院へ通訳派遣が中止となり、遠隔通訳をしました。2月以降、患者さんの病院へ行き控えがおこり、件数は減っていたものの遠隔通訳になったとたんに病院からの依頼は激減しました。しかしながら、遠隔通訳をするという機会をもらえたことは、個人的には貴重な経験でした。以前から、あまりの派遣依頼数に遠隔通訳と派遣通訳とを組み合わせるためのガイドラインを考えたいと思っていました。本来は病院側が判断するものだとは承知の上、また、医療通訳は通訳者側、患者側、医療者側の3者で決めていくのが最良だとは自明の理ではありますが。

 実際に遠隔通訳をすることでいろいろなことがわかってきました。もちろん、対面通訳が通訳者にとっても患者側にとっても「医療通訳」ということを考えると最良の方法である

には違いないのですが、他の面でよい面も見ることができました。患者さんが、通訳者が隣にいると病院内での行為全てを通訳者に頼りがちになってしまう方が多いのですが、遠隔通訳になるとできるだけ自分のできることは自分でやるという自立も見えてきました。また、電話のやり取りで通訳をする場合は、医師が普段より患者に伝えたいことを簡潔に話してくれるということが多かったり、通訳者もメモ取りが容易だったり、ビデオ、スピーカフォンを使っての本来と同じような会話の通訳に際しても、通訳者は資料を広げて通訳できるといった利点もあったようにおもいます。

 反対に問題点も多くみられました。通信が安定しないという問題、電話での通訳の場合、どこにいるのか、何人いるのか、患者と医療者だけではなかったときに、発話したのが誰なのかといったことがわからないということがありました。ビデオになると見えるという事でかなり解消できることは多いのですが、使い方に慣れていないと映っているのが壁だけであったり、医師の横顔だけであったりとせっかくのビデオが生かされていないこともありました。また、手術の説明や具体的な機器の使い方などはかなりてこずりますし、告知やカンファレンスはその場の参加者の気持ちに寄り添って通訳するという事は、遠隔では難しいと感じさせられました。

 

 無理やりに与えられた少ない経験ではありますが、何が遠隔でできて、何ができないのかということを具体的に知ることができたことはこれから先の医療通訳活動に指針を与えてもらったような気がしています。(ya