2020年夏、今頃日本は東京2020オリンピック・パラリンピック大会で大いに盛り上がっているはずでした。私もヘルスケアボランティアとして救急セットを片手に会場を巡回しているはずでした。ところがCOVID-19 パンデミックによりオリパラは延期、感染状況は全く先が見えず生活や経済に対するダメージも計り知れない世界が目の前に広がっています。一体誰がこんな日が来ると想像できたでしょう。
人と物が自由に移動するグローバルな時代になり、感染症は風土病として終わらず一気に世界中に蔓延する病気になりました。じゃあ昔のように国と国は小さな扉を開け閉めして必要な時だけ交流する時代に戻れるのかというとそれはもう不可能でしょう。日本人も海外に出ていき、多くの外国人を日本に受け入れるのはこれからも変わらないはずです。
訪日在日外国人が増える中で国際化が急速に進んだのは医療現場も同じです。命を扱う医療の現場で言葉と文化の違いを超えるのは簡単なことではありません。国も外国人受入れ医療機関の整備や医療通訳の養成を後押しするなど時代に求められながら施策をしてきました。患者ケアの要ともいうべき看護の領域でも、2011年に国家試験に新科目「看護の統合と実践」が追加され、その中の1項目に「国際化と看護」という分野ができました。看護師育成においても医療の国際化は避けて通れないものになっています。医療通訳の学びのためにNAMIに入会した私は元看護師として、常に頭の片隅で「看護の国際化」と「医療通訳のあり方」の両方を意識していたように思います。
国家試験の変更以降、国際化対策として英語習得に力を入れる学校はありますが、国内で急増する外国人患者対応に必要なのは英語力だけではないことはNAMIの皆さまならすぐお分かりだと思います。もちろん英語コミュニケーション力は役立つ事も多いですが、英語が母語でない外国人が圧倒的に多い上、問題になるのは文化の違い等に起因した入院トラブルや未収金、不十分なコミュニケーションで生じる不信感など「英会話が出来たらOK」とはとても言えない状況です。こういった現状を知り、どこに原因があるのかを考えることができる力、またどういった制度や人材が助けになってくれるのか、総合的に外国人医療に向き合える医療従事者の”cultural competence” 異なる文化に対応していく力がもっと必要だと私は考えています。
この総合的な力の中には自分でできることを見極め、できない事を「プロに委ねる勇気を持つ」事も含まれます。医療の国際化に関わる職業の一つである医療通訳者は、医療従事者がその専門性を十分発揮できるために患者との間に入ってくれる専門職である、という認識も重要です。医療通訳者がどのようなことを学び、どのような訓練を受けているのか知っている現場はまだ少ないと思われます。もし医療従事者が医療通訳者のことや外国人医療を取り巻く現状と課題と施策等について理解を深めるなら、誰かに強制されるまでもなく、自然と医療通訳者を医療のチームに加えることになるのではないか― そのためにできる働きかけがあるのではないかー NAMIでの学びを通して私は徐々に自分の役割に気づかされたのでした。
来年から私はある看護学校の看護英語のクラスを担当することになっています。元看護師で医療通訳を学んだものとして、これから現場に出ていく学生たちに伝えたいことがたくさんあります。NAMIの皆さまと共に医療通訳者が医療チームの一員として「当たり前に」活躍できる日を目指して、私も自分なりの方法で小さな一歩を踏み出したいと思います。(NH)
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