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AIと医療通訳

今、この記事を読んでいる医療通訳者のあなたは、AIに対してどのようなイメージを抱いているだろうか。

1221日、愛知県立大学主催のシンポジウム「AI時代と多文化共生」が開催された。筆者が10年前から非常勤講師として勤務している当大学は、外国語学部の他に、看護学部、教育福祉学部、情報科学部があり、コミュニティ通訳を学んだり、コミュニケーションツールを開発するための学内連携が可能な環境にある。

このシンポジウムでは、防災、教育、医療など様々な角度からAIとの関わりについての議論がなされた。そのほとんどが、好意的なもので、言葉や文化の壁をうまくAIを使って乗り越えていこうという前向きな議論であったと思う。

 

10年ほど前、まだGoogle翻訳もいまいちで「Good Morning」を「よい朝」と訳していた頃は、逆に通訳に関して「機械翻訳の性能が上がればなくなるだろう仕事」という意見が多かったように思う。機械翻訳が、近い将来、人間の通訳者と同じくらいの性能をもった通訳ができるようになるであろうと誰もが考えていた。その頃に比べると、ここ数年で機械翻訳の精度は急速に上がったと思う。やればできるじゃないかというレベルだ。しかし、逆に「なくなる仕事」の中に「通訳」がでてこなくなった。機械翻訳の性能が上がれば上がるほど、その限界と通訳者との棲み分けが明確になってきたと言わざるを得ない。

もともと医療通訳の使命は、医療現場で患者や家族が言葉の違いで困らない環境を作ることである。単なる言語の置き換えであれば、機械翻訳で可能な場面は増えてくるだろう。特に、医療通訳者のいない地方都市では、いかに「やさしい日本語」と「音声翻訳ソフト」をうまく使うかというユーザートレーニングが鍵となる。

しかし、日本の外国人医療においては、未だ医療通訳者が様々な調整や文化的な介入を行わざるを得ない状況があることも事実である。医療通訳に求められるものは場面によって違う。今後、どちらが生き残るかではなく、機械翻訳との共存は私たちにとっても重要な課題である。

また、この議論と真摯にむきあわなければいけないのは、医療通訳者を育成、選抜する機関であることは明白である。AIと同じ能力の医療通訳者を育てても、近い将来、AIのメリットのほうが上回る。そうでなく、医療通訳者が行うべき領域を見据えた上で、対人援助職としての力量をもつ医療通訳者をどう育てていくかを考えていくべきである。(N・M)

 

 

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コメント: 1
  • #1

    岡部真理子 (水曜日, 08 1月 2020 15:39)

    愛知県立大学主催のシンポジウム「AI時代と多文化共生」に参加しました。多岐にわたる分野においてAIとのかかわり方につて議論がされ、とても有意義な時間でした。特に、医療通訳と機械翻訳の共存について、双方のメリット・デメリットを具体的に紹介された上で、医療通訳者ならではの役割をきっちり提示してくださり、安心しました。
     医療通訳者を育成するのは、派遣する機関だけでなく、医療通訳者自身も自分を育てていかなければならないと思います。なので、養成を含めた研修のあり方も、通訳者自身が考え、振り返るような内容であってほしいと、いち通訳者として願っています。