児童虐待による痛ましい事件が相次いでいる。その原因の一つに孤立した子育て環境によるストレスがあることを考えると、異国で生活する人たちの中もリスクのある家庭はあるだろう。
実際、私も児童虐待が疑われるケースの通訳を担当したことがある。2歳くらいの子供が怪我で何度か外来に訪れ時には入院することもあったのだが、親の話からするとその怪我の部位や程度が不自然で、もしかしたら虐待ではと病院側が心配した。それまでは親が友人を通訳として連れてきて医療スタッフとコミュニケーションをとっていたが、もっと詳しい話を聞いて説明するため、病院側が外部から医療通訳を雇ったのである。
カンファレンスルームに、医師、看護師、ソーシャルワーカー等医療チームと、患者の父親といつも通訳を務めている友人も同席し、別室では児童相談所のスタッフが控えているという場面だった。通常の診察と違い、このように複数の人に囲まれ、さらにもう一人通訳者がいる前で通訳するのは試験を受けているようで非常に緊張する。とにかく、「足さない・引かない・変えない」という通訳の基本と、中立という自分の立場を守り、冷静に正確に通訳することを心がけた。結局その場では虐待と判断できなかったようで、児童相談所のスタッフも登場せずに終わった。
このような場合は、やはり患者や医療機関と利害関係のない、派遣型の医療通訳者が担うのが適切だろう。児童虐待防止法や児童福祉法が改正され、医師や児童相談所の役割が強化されることになり、日本で暮らす外国人も増加している今日、通訳の出番も増えるかもしれない。国籍や年齢にかかわらず、だれもが安心して医療サービスを受けたり、生活相談できる社会になることを願いつつ、自分も医療通訳者としてさらに研鑽に努めようと思う。(Y.S)
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