「英語が話せるから必要ないです」「妻は日常会話はできるので、説明はだいたいわかっているので大丈夫です」
医療現場では時々、医療通訳を紹介してもこんな風に断られることがある。また、同時に医師からも「英語で説明して理解されているから、必要ないんじゃない?」と言われることもある。この場合、医療通訳が本当に必要ではなく、医師が英語や簡単な日本語で説明して十分であるか?それはNoである。
「英語が話せるから必要ない」と言っていた患者さん。医師の説明にいつも「質問はない。わかっている。」と話し、無口な印象。
ところが…医療通訳者が同席した瞬間に堰を切ったように話し出した。あっ、こんなに話す人だったんだ…そしてこんなに聞きたいことがあったんだ。治療上の規則を守れないのは「文化の違い?」「理解が悪い?」「パーソナリティー?」と医療スタッフは関わり方に戸惑っていたが、結果、医療スタッフの説明を十分に理解できていなかったからということがわかった。医療スタッフの患者さんに対する印象が変わる。そして、説明が終わった後に、医師も「通訳に来てもらってよかった」と話し、患者さんも医師もほっとした感じがお互いに伝わった。
「妻には医療通訳は必要ない」と言っていた患者さん。
医療通訳者に同席してもらい病状を説明すると、奥さんは「病名以外わからず不安だったが、安心した」と話された。そして今後の生活で気をつけることなど積極的に質問し、熱心にメモをとられていた。患者さんも「妻が安心してくれてよかった」と話された。
医師や医療スタッフからの説明を正しく伝えること…それは医療者と患者さんのコミュニケーション促進を図り、よりよい医療の提供につながるだけでなく、疾病やけがという人生の危機的状況にいる患者さん・家族への「情緒的サポート」も伴っていると感じる。そして、それぞれが今後の生活において自分自身のこととして、自らが取り組むことへの手助けとなっている。そんな風に「医療通訳」の役割や効果が大きいこと日々実感する。
医療現場では、潜在的に医療通訳を必要としている患者さんが多くいらっしゃる。患者さんの潜在的なニーズを拾い上げ、医療通訳者につなぐことができるように、医療機関のスタッフも医療通訳の効果や役割を認識する必要があると思う。
また、「医療通訳」がどの地域でも同じように活用できる社会を目指して、NAMIの活動が展開されたら素晴らしいと思う。それぞれの立場で取り組むことで、ソーシャルインクルージョンの実現につながるひとつなのではないかと考える。
*ソーシャルインクルージョン:
「全ての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康で文化的な生活の実現につなげよう、社会の構成員として包み支え合う」という理念
(賛助会員C.S)
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