· 

私の口から・・・

ご承知のように通訳という仕事は、Aさんの発言を聞き、その内容をそのまま違う言語に変換して、あたかもAさんが発言しているがごとく1人称でBさん(たち)に伝えることです。なので、自分だったら絶対言わないようなフレーズを口にすることもありますが、俳優さんのようにAさんになりきることが仕事の一部になったりします。

 

これが医療通訳となると、時にその内容が厳しすぎて自分の口からその言葉を発することを一瞬躊躇してしまうことがあります。「あなたのお子さんは、このまま手術しなければ1ヶ月くらいで亡くなります。でも手術しても手術中に亡くなることもあります。どうされますか?」メモを取る手が震えました。出だし、声がちょっと上ずってしまいました。「医療通訳」をしていなかったら、一生他の方に「あなたのお子さんは・・亡くなる・」と自分の口から言うことはなかったはずです。できるなら私のこの口からその言葉を発したくなかったです。訳出に集中することでその通訳を終え、そこで「医療通訳」としての「覚悟」ができました。

 

続けて流産された方に「よくあることです」とおっしゃる先生。先生にとっては日常のことかもしれないけれど、この目の前にいる方にとっては「よくあること」ではないんですよ~と思いながらその通りに訳す私。案の定、患者さんから無言の哀しい空気が伝わってきました。もちろん先生は、「流産はあなたのせいじゃないよ」とおっしゃりたかったことはわかっていますが、もう一言二言欲しかったなぁと。私が付け足すわけにはいかないし。診察室を出て、つい「よくあることかもしれないけど、よくあることじゃないよね。」と訳の分からないことを口走ってしまったら、彼女、哀しそうな目がちょっとだけ穏やかになった気が。。。気のせいかも。

 

「あなたの癌はもう全身に広がっていますから。」そうかもしれないけれど、他に言い方は・・・と思いながらその通りに訳出。重苦しい空気を引きずったまま病院を後にし、ずっと引きずったまま。

 

変わった例。「私はあなたが嫌いなの!大嫌いなの!!!」なぜか夫婦喧嘩の通訳をする羽目に。その日初めて会ったよその旦那さんに

“I don’t like you! I hate you!!!” と言っている私。(ms)