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~医療通訳はどこまで介入すべきか~

医療通訳の勉強を始めてまず徹底的に教えられること、それは医療通訳の倫理です。私は、大学病院で医療通訳活動を現在していますNAMIの会員です。

ご存じのように、医療通訳者は”conduit”(導管)であって、「何も足さない、何も引かない」が大原則です。

ただ、児童虐待や患者さまの命に関わるような事態は別です。でもそれだけではありません。

例えば・・・

生まれて初めて心電図検査やレントゲン検査をうける幼児にとって、あの真っ白く無機質な検査室は怖くて、に入った瞬間から恐怖心で一杯になってしまいます。さらに検査技師さんは小児科のドクターや看護師さんのようにピンクの白衣など着ていませんし、部屋にアンパンマンやミッキーマウスの絵などあるはずもありません。あるのは大きくて不気味な機械やコンピューターばかりです。お子さんによっては本気で怒って泣き出してしまい、全身の力を振り絞って抵抗します。最初は控えめな検査技師さんも必死になるので次第に言葉少なになり最後のほうは無言になってしまいます。そんな状況の中で、通訳の私はティッシュでお子さんの涙と汗を拭いてあげる以外はそばでじっと立っている事しかできません。(その場にいる大人が全員ひとりのお子さんを押さえつけているのですから、汗を拭いてあげられるのは私だけです。)検査後、担当の医師からは「通訳さんから(自発的に)おかあさんにアドバイスや励ましの言葉をかけて頂けたら良かったかもしれません」と言われました。

 

採血になると、さらに身体拘束という非常につらい状況になる事もあります。幼児ばかりではありません。精神疾患をお持ちの大人の患者様の採血などは母語でさえもとても大変です。

あなたならどうしますか?自発的に言葉をかけますか?

私も非常に迷いましたが、やはり倫理規定に従いました。テキスト通りの現場だけではないので、通訳はどこまで介入すべきなのかその時々の適切な判断が求められます。しかもどうすべきなのかをじーっと考えている時間的余裕はなく瞬間的に判断することが求められます。これは経験を積んでいくしかない事なのでしょうか。患者さまにとって本当に必要な医療通訳への道のりは長いなと感じています。

NAMI会員 K.S.