NPOでラテン系言語の医療通訳スタッフと通訳コーディネーターを始めて10年以上。
派遣システムの中で医療通訳者をやっていると、「患者来院せず」で当日キャンセルに遭遇することがある。約束の時刻通りに現れない患者もいることから、しばらくはそのまま待つ。それでも、来なければ、病院職員が患者の連絡先に電話をする。連絡が取れたところで、「忘れていた」「受診をキャンセルしたが、それが通訳を依頼する窓口に届いていなかった」「帰国してしまっていた」など、来院しなかった理由がわかるのだが、ときに連絡が取れないことがある。お一人暮らしで、病状が重く、生活保護であったりすれば、病院から役所に連絡をとって様子を見てもらうことができる。これまで、これに該当することが3件あり、1件は役所の方が、家に行ったらもぬけの殻・・近所の話から、娘さんがやってきて、全てかたづけて父親を連れて帰国してしまったと推測された。役所での手続きは何もしていなかったので病院まで伝わっていなかった。あとの2件は、役所の方が行かれたところ、
お部屋で亡くなられていた。これは、本当にやり切れない。やり切れないが、理由がわかり、もう私たちがこの方たちには必要なくなったのだなと心の始末がつけられる。しかしながら、家族と住んでいて・・という患者さんの場合、ポツンと途切れてしまうことがある。もちろん、役所の人が訪れることもなく、病院もその患者さんを深追いすることはない。病院で受診することはあくまでも患者の意志で、病院が強制するわけにはいかないのだから仕方のないことである。もちろん、通訳者からも強制することはできないことだ。患者の生活に立ち入ることなどもってのほかなので静観するしかないのであるが、「薬をきちんと飲まなければ命に関わる」「手術日が決まっていた」「PTSDの治療の最中だった」「妊婦」などで、病院へ来なくなってしまった患者についてはいつまでも心に残る。帰国したり、よその土地に行ったり、他の病院へ行ったりしたための「来院せず」だったらよいのだがと、時折、なんともいえない不安とともに思い出す。(ya)
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